「『愛』とは何だ?『夢』とは何だ?
    本当の意味を知られる事なく世に氾濫している言葉よ。」
             カール・C・ローズ「虚無」第4章

「ふぅ・・・いやぁ、負けてしまったでござる。」
ムサシはさばさばした口調で、頭をかきながら言った。
「さすがに相手が悪かったでござるな。
ま、気をとりなおして午後に賭けるとしよう。」
「ムサシ・・・お前、大丈夫かよ?」
オレはてっきりムサシがショックを受けているとばかり思っていたので、
彼がこんな態度を取っているのが意外だったのだ。
「ほぇ?」
ムサシは「何が?」といった表情でこちらを振り向いた。
「はっはっは、入学が厳しくなったことは確かだが、ここでキレても何にもならぬ。
最後までベストを尽くした上の結果に何の不満があろうか。
心配してくれてサンキューでござるよ。」
そう言って豪快に笑うムサシ。
心配はいらなかったようである。
「では、昼食でもとるとするか。」
オレたちは相変わらずそこいらじゅうにある屋台で、
やきそばとお好み焼きを食べ、互いの午後の健闘を祈って、別れた。
何でも、ムサシは試合が始まるより前にリングに行かなければ落ちつかないらしい。
マメな奴だ。
そして、一応オレもそれにならい、21ブロックに戻ってきた。
「試合開始まであと約30分か・・・」
やはり、人はまばらでほとんどいない。
試験官のマラー先生ですら、まだ姿を見せていない。
リングのわきで座って時間をつぶすか・・・
「っと。」
腰を下ろしたオレは、リングにもたれ掛かり、手を頭の後ろで組んだ。
「ふふ、ずいぶんと退屈そうだな。」
「ん?」
声をかけてきたのは、オレより1つ2つ年上だと思われるメガネをかけた男だった。
相当度数が強いメガネらしく、表情が読み取れない。
黒い髪はボサボサで・・・と、人のことは言えないぞ、オレも。
そして手には何やら妙な機械を持っている。
まぁ、典型的な「秀才クン」の様相を呈している。
「俺はランス・D・シコースキー。
次の試合で君と当たる。よろしく、リックス・クルズバーンくん。」
淡々と挨拶をするランス。
「あ、よろしく・・・」
「隣、いいかい?」
そう言ってオレの横に座る。
「ふぅ・・・」
と、大きく息を吐き、こちらを向く。
「君の試合は全て見させてもらったよ。
特に苦戦もなく、安定して勝ち進んでいるじゃないか。
なかなか手ごわそうだ。ここはひとつ、お手やわらかに頼むよ」
そう言って手を差し出す。
「はは、ありがとよ。
まぁ、お互いがんばろうぜ!」
本当のことを言われても嬉しくとも何ともないが、やはりここは礼を言っておくべきだろう。
いや、冗談だけどさ・・・ι
「しかし、君は何故ERAZERになろうと思ったんだ?
こんな面倒な職業は他にないぜ。」
ランスは問う。
「小さい頃からの夢なんだ。
カール・C・ローズやダイン・ルーザスといった、素晴らしい戦士に憧れて。
それに・・・ちょっとした事情があってな・・・」
脳裏に、スコーピオンの顔が浮かぶ!
両親を殺された、あの怒り。
入学手続きの時の、あの屈辱。
倒れていたオレが意識を取り戻すと、既に手続きは完了していた。
オレはヤツに、よりによって自分の両親を殺した男に、大きな、大きなカリを作ってしまったのだ。
そう、だからオレは、こんな所で立ち止まっている暇はない。
今は敵わなくとも、いつか・・・絶対に、ヤツを倒す。
「ほえほえほえほえ〜♪」
と、イキナリ気の抜けたよーな音がして、オレの思考を中断させた。
「はいはーい!チャイムが鳴ったね。
では、これから後半戦を始めます!」
チャイムって・・・今のがか?
そんな疑問とともにこの場に現れたマラー先生が言う。
いつの間にか、受験生もみんな揃っている。
「じゃあ、すぐ試合を始めるよ。
えーっと、リックス・クルズバーンくん対ランス・D・シコースキーくん!」
マラー先生の掛け声で、リングに上がるオレとランス。
「そー言やランス、お前はどうしてERAZERになりたいんだ?」
リング中央でで対峙しながら、オレは聞いてみた。
「何、ERAZERになれば、世界に行けない場所はない。
見ることのできない資料もない。
俺の研究には、どうしても必要な資格だから、だよ。」
そう言ってランスは笑った。
やはり、見た目通り学者タイプの人間らしい。
だが・・・学者タイプのERAZERを目指すのならば、
筆記試験は確かに難問だが、戦い慣れた戦士相手の実技よりも、楽なのは目に見えている。
もしかして、問題が解けないのか?
コイツ、実は見た目ほど頭はよくないのかもしれない・・・
そんな事を思いながら、オレは戦闘態勢に入った。
「試合開始!」
一撃で決めてやるッ!
「破砕剣っ!」
オレの必殺技は完璧に決まった・・・ハズだった。
「ストーム!」
ランスの風魔法が破砕剣と相殺!
そして、ランスはオレにできた一瞬のスキを逃さず、足元へ向けてナイフを放つ!
「アイスバーン!」
続けて、氷の塊が、ひるんで動けないオレの腹に直撃した!
「がはっ・・・!」
オレは、立っていられなかった。
「君は、俺のことをナメていたんじゃないか。
何で俺が筆記試験じゃなく、実技を選んだかわかるかい?」
ヒザをついたオレの前にランスが立ちはだかる。
「筆記以上に、実技で勝ち残る自信があるからさ!」


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